夫婦で自宅を共有しており,夫が死亡したとします。夫には多額の債務が残っていたため,妻が相続放棄をすると,夫の共有持ち分はどうなってしまうのでしょうか。
この点,民法255条は,「共有者の一人が,その持分を放棄したとき,又は死亡して相続人がないときは,その持分は,他の共有者に帰属する。」と定めています。
しかし,最高裁平成元年11月24日判決は,「 共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは,その持分は,民法九五八条の三に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり,右財産分与がされないときに,同法二五五条により他の共有者に帰属する。」旨判示していますから,相続債権者への弁済や,特別縁故者に対する財産分与が必要な場合には,民法255条によっても直ちに他の共有者に帰属するということにはならない,ということになります。
民法
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
第九百五十八条の三 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
最高裁平成元年11月24日判決