民法772条は,婚姻後200日以降に生まれた子,離婚後300日以内に生まれた子は夫の子であると推定されることを規定しています。そのため,夫が生まれた子との父子関係を否定しようという場合には,子の出生から一年以内に,嫡出否認の訴え(民法774~778条)を起こさなければなりません。一年が経過してしまうと,父子関係が確定し,後にDNA鑑定によって実の父子でないことが明らかになったとしても,基本的には,父子関係を否定することはできなくなります(最高裁平成26年7月17日判決)。
一般的な感覚からすると,DNA鑑定により父子関係がないことがはっきりしている場合に,法律的に父子関係を否定できないというのは,おかしな感じがするかもしれません。しかし,一方で,DNA鑑定の結果次第ではいつでも(例えば死亡直前でも)親子関係を否定しうる,というのも身分関係の安定という見地からして問題があるといえるでしょう。実際,上記最高裁の裁判官の間でも意見が割れています。
もっとも,一定の場合には民法772条の推定が及ばない,として子の出生から1年経過後であっても親子関係不存在確認の調停,訴えという手段がとりうることがあります。例えば,夫が長期の海外出張,受刑,別居等で子の母と性的交渉がなかったなど,妻が夫の子どもを妊娠する可能性がないことが客観的に明白である場合です。
また,平成19年5月21日以降は,離婚後300日以内に生まれた子につき,離婚後の懐胎である旨の「懐胎時期に関する証明書」を添えて出生届を提出すれば,772条の推定が及ばないものとして取り扱われるのが戸籍実務となっています(平成19年5月7日 法務省民‐第1007号 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji137.html)。
民法
(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。
最高裁平成26年7月17日判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/337/084337_hanrei.pdf