不動産売買において,事故物件であることが説明されないまま売買(賃貸)がなされ,後で発覚した場合には,契約解除や売主に対する損害賠償請求の根拠となりえます。このいわゆる「心理的瑕疵」についてのリーディングケースは大阪高裁昭和37年6月21日判決です。同判決は,
「売買の目的物に瑕疵があるというのは、その物が通常保有する性質を欠いていること をいうのであつて、右目的物が家屋である場合、家屋として通常有すべき『住み心地の良さ』を欠くときもまた、家屋の有体的欠陥の 一種としての瑕疵と解するに妨げない。」
としたうえ
「建物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景など客観 的な事情に属しない事由をもって瑕疵といいうるためには、単に買主において右事由の存する家屋の居住を好まぬというだけでは足らず、さらに進んで、それが、通常一般人において右事由があれば『住み心地のよさ』を欠くと感ずることに合理性があると判断される程度にいたつたものであることを必要とする。」
と判示しています。例によって,心理的瑕疵に該当するかどうかはケースバイケースになりますが,トラブル防止の観点からは,心理的瑕疵に該当しそうな事実については,あらかじめ買主に説明するべきでしょう。
上記判例は,売買契約における民法570条の「瑕疵」の解釈が問題となったものですが,不動産の賃貸借においても,売買の場合と同様に,心理的瑕疵についての説明を怠った場合に損害賠償責任を認める判決が存在します(神戸地裁尼崎支部平成25年10月28日判決)。
また,売主や貸主のみでなく仲介業者も宅建業法25条の重要事項説明義務違反を根拠に損害賠償責任を負うことになるケースも珍しくありません。
実際の事案では,事故物件であるとの情報が買主(借主)に入ってきたとして,それが事実なのかどうか,売主(貸主)や仲介業者が認識していたかどうか,認識していなかったとしたらそのこと自体が調査義務違反といえないか,売主(貸主)か仲介業者かどちらに責任を追及すべきか,等様々な点が争点となりえます。
民法
(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
宅地建物取引業法
(重要事項の説明等)
第三十五条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。