中小企業において会社のオーナー代表者が会社に対して何千万円もの金銭を貸し付けている場合があります。会社の決算報告書にも,代表者に対する借入金が計上されているのですが,代表者=会社という意識があって,返済しなければならないという意識が弱く,長年放置されているという場合もあります。
このような場合において問題が生じるのは,会社に対する多額の貸付金を残したまま,代表者が死亡して相続が発生した場合です。会社に対する貸付金といっても,代表者個人の観点からみれば財産です。すなわち,銀行預金などと同様に相続税の課税の対象となってしまうのです。会社から返済してもらう意思がなかったといっても,それだけで税務署が納得してくれることはありません。国税庁財産評価基本通達204によれば,貸付金については,元本と利息で評価されるのが原則であり,例外的に「回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」にこれを算入しないことが許されます(同通達205)。しかし,そのような例外が認められるのは,相続税の「課税時期」(被相続人の死亡時点と解されます)において,破産宣告がなされている等の事情がある場合に限られます。
現実問題として,回収見込みのない会社に対する貸付金について相続税を課税されてしまうという不合理な事態も起こり得ます。そのような不合理な事態を避けるには,事後的に不服申し立てや訴訟で戦うという不確実な方法ではなく,そのような事態が起こらないように,事前に代表者貸付けを処理しておくことをお勧めします。もっとも,単純に貸付金を放棄すると今度は会社に多額の債務免除益が発生し,法人税が課税されることもありますので,専門家の助言を受けながら対策をとるべきでしょう。
国税庁財産評価基本通達
(貸付金債権の評価)
204 貸付金、売掛金、未収入金、預貯金以外の預け金、仮払金、その他これらに類するもの(以下「貸付金債権等」という。)の価額は、次に掲げる元本の価額と利息の価額との合計額によって評価する。
(1) 貸付金債権等の元本の価額は、その返済されるべき金額
(2) 貸付金債権等に係る利息(208≪未収法定果実の評価≫に定める貸付金等の利子を除く。)の価額は、課税時期現在の既経過利息として支払を受けるべき金額
(貸付金債権等の元本価額の範囲)
205 前項の定めにより貸付金債権等の評価を行う場合において、その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。(平12課評2-4外改正)
(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額(その金額のうち、質権及び抵当権によって担保されている部分の金額を除く。)
イ 手形交換所(これに準ずる機関を含む。)において取引停止処分を受けたとき
ロ 会社更生手続の開始の決定があったとき
ハ 民事再生法(平成11年法律第225号)の規定による再生手続開始の決定があったとき
ニ 会社の整理開始命令があったとき
ホ 特別清算の開始命令があったとき
へ 破産の宣告があったとき
ト 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき
(2) 再生計画認可の決定、整理計画の決定、更生計画の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額
イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額
(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額