家賃のような定期給付債権は,5年の短期消滅時効にかかります。貸主側の立場としては,家賃の消滅時効が問題となってしまうほどに滞納が続くような事態になる前に契約を解除し,明け渡しを求めるべきなのですが,法律上はそのような決まりがあります(民法169条)。
家賃債権の消滅時効との関係で,しばしば目にするケースは,借主が家賃を数か月おきに1月分ずつ支払っているような場合です。このような場合の貸主側の入金管理方法は,「もっとも古い月の家賃に充当していく」のが正解です。
このような場合,飛び飛びで支払われる1月分の家賃が,何年何月分の家賃として支払われているのか,明示されないのが通常だろうと思います。つまり,民法488条の弁済充当の指定がされないケースが圧倒的に多いわけです。
そうすると民法489条の法定充当の問題になりますが,法定充当の順序としては同条3号により,弁済期の先に到来したものに充当されることになります。つまり,最も古い月の家賃に充当することには正当性があるわけです。また,そのように解することで,古い月の家賃が時効消滅していくのを防ぐことができます。
ちなみに,2号の「債務者のために弁済の利益が多いもの」というのは,利息や遅延損害金が高いものという意味として考えればよいでしょう。
(定期給付債権の短期消滅時効)
第百六十九条 年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は、五年間行使しないときは、消滅する。
(弁済の充当の指定)
第四百八十八条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
(法定充当)
第四百八十九条 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。