従業員の便宜のため,会社が民間のマンションを借りて,従業員の社宅(寮)として用いることがあります。会社としては,従業員が会社を退職する場合には,当然に社宅からも退去してもらうことを前提としていることが多いと思いますが,本当にそのように考えてよいものかどうか一考の余地があります。
建物の賃貸借については,借地借家法という法律があり,賃貸人は正当の事由がなければ契約の更新を拒絶することができません(借地借家法28条1項)。社宅といっても,会社が従業員から相場どおりの賃料をとって,マンションを貸しているのであれば,通常の賃貸借契約と何ら変わるところはありません。
この点,相場より相当程度低い賃料で社宅として提供していたのであれば,賃貸借に該当せず,退職とともに退去を求めることも可能ですが(最高裁昭和30年5月13日判決,仙台高裁昭和28年6月10日判決),そうでない場合には,会社にとってのリスクになるといえるでしょう。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。