債務弁済と相続放棄

 3か月の熟慮期間中であっても、「相続財産の処分」(民法921条)をすると相続放棄が認められなくなってしまいますが、具体的に何が「相続財産の処分」にあたるのか、というのは必ずしも明確ではありません。(相続放棄と法定単純承認

よくあるのは、相続債務の支払いが「相続財産の処分」にあたるのではないか、という誤解です。この点は、福岡高等裁判所宮崎支部 平成10年(ラ)第50号 相続放棄の申述却下審判に対する即時抗告事件 平成10年12月22日決定でも述べられているところですが、相続人の固有の財産からの支払いであれば、「相続財産の処分」には当たらないのは明らかです。

 

 多少悩ましいのは、借家に独居していた被相続人が死亡して、相続人が相続放棄する場合の建物明渡しです。相続放棄をする以上、明渡し義務はないのですが、道義上明渡しの協力を求められることがあります。このときに、明渡しへの協力が相続放棄の妨げにならないかという問題があるのですが、この点についての裁判例はなく、「相続放棄をする以上はできるだけ借家の明渡しにも関与すべきでない」という考え方をとる弁護士もいます。しかし、常識的な明渡しの範囲であれば、被相続人の借家の明渡しに協力したことを以て、問題が生じることはまずないものと思います(別の角度からいえば、相続債務が減少するのであれば、そのことを問題視する相続債権者はまずいないはずです)。

 もちろん、相続放棄をしようということであれば、返還される敷金があったとしても受け取るべきでないことはいうまでもありません。